「なあなあ、部活何入るか決まったー?」
「うーん…まだきまんねえ。」
「俺もなんだよ。軽音楽やりたいんだけど…」
「じゃあさ、九号館裏のあそこ行ってみないか?」
「あれ!?たしかKUSOGAKIとかいうやつ」
「そうそう。KUSOGAKI」
「あれ個人バンドだろ?というか名前からして荒れてそうだな」
「お前いってこいよ。」
「やだよー俺は…あんな怪しいとこ行きたくねー!だったらちゃんとした部活いくわ。」
「だよなー…」
「でもさ、そのKUSOGAKIのベーシストがヤバいらしいぞ?」
「ヤバい?」
「噂によるとものすげー美人らしい」
「まっさかー!そんなやつ今時いねえよ!ほとんどブスばっかだろ。今時」
「俺も見たことねーんだよなあ。あいつらのライブ。」
「いつあんの?そのライブ」
「明日らしいぜ。東京の新宿で」
「へー…」
「一緒にいこうぜ」
「俺やだ」
「…まじかー。噂のベーシストとか見てみたいんだけどな」
「お前一人で行けよ」
「…まじかー。」
バカバン!
皆さん、大学受験または大学生活、いや、日常生活はいかがお過ごしだろうか?
突然だが、埼玉県某所に、葉課坂大学というFランク大学校があるのをご存知だろうか。いや、存知ないだろうか。
とある駅の西口を降り、ビルが立ち並ぶ駅前に出る。そのまままっすぐ信号を2つ渡って頂き、右に曲がってそのまま少し歩くと、白い建物の映える大学がある。
その大学は学力こそ低かれ、学園祭等の行事と部活動が盛んで、部活動に関しては業績が高いことで入学するものも多い。
そんな大学にいる、とある変な人達のお話をしよう。
昼下がりの食堂で、二人の男子学生が何やら不思議なバンド…のことについて話している。お互いにお化けかなんか見たとでも言いたげなようにヒソヒソと…。
それを近くのテーブル席で、ラーメンを啜りながら盗み聞きしている男女の三人組がいた。
「…ったく、お化けかなんかとでも言いたげね!」
一人は、とてつもなく長いピンク色の髪を片手で弄りながら不満げに膨れっ面をするギャルっぽい女の子。
「俺お化けなんかじゃねーし!」
ラーメンを口に入れたまま、プンスカと怒る、全身茶色の男。
「ははは…。」
反応に困り、笑いながら購買で買った質素なサラダを食べる地味な女の子。
「いるのは、この美しい女の子…即ちアタシと、ゴボウみたいなアンタと、地味メガネなアンタくらいかしら?」
「えー!?俺ゴボウじゃねえから!」
「地味メガネとはまた…。」
ゴボウは反論し、地味メガネは苦笑いを浮かべる。
「じゃなんでそんな全身茶色で、そんなにヒョロっちいのよ」
「体質だぜッ!いいだろ痩せてて!」
「痩せすぎよ。あとそれからラーメン食いながら喋らないでよ。汚いわ!」
「…はーい。」
茶色男は、まだ口に入っているラーメンを飲み込む。
「…ったく」
ピンク髪の女はため息をつく。
「…アタシら、二年生になったじゃん?」
「うん」
「…あいつ、見かけないわね。」
「入学式のときに見かけたろ?」
「えっアンタ見つけたの!?アタシ見つけられなかったわ。」
「嘘だろヨネコ氏、あいつデカイから一発でわかるはずだぜ!?」
ヨネコと呼ばれた女は頭をポリポリかきながら
「…ごめん。アタシ入学式は吹奏楽部のお手伝いしていたんだわ。」
と舌を出した。
「だから見つけられなかったのよ。」
「ヨネッサンいつ吹奏楽部に入ったんだ?」
「違うわよ。人数が足りないからってお手伝いしにいったの。」
ここで少しヨネコの紹介をしようと思う。
彼女の本名は、阿野良音子
20歳、女性、身長160cm、48kg、A型。皆からはヨネッサンと呼ばれている。
見た目は、とにかく派手である。ショッキングピンクの長い長い髪を二つに束ねており、くるっと巻く等オシャレにアレンジがしてある。顔はほどよく肉がついており、眉毛がない。目元にはアイラインやカラフルなアイシャドー、唇がつやつやなのはおそらくリップグロスを塗っているから。
とにかく派手なのだが、ちょい悪学生ならどこにでもいそうな感じである。
余談だが、デカイ。胸が。
「へえ。楽器何やったんだ?」
「ピアノよ。吹奏楽部でピアノ使いたいだなんて珍しいにもホドがあるわ。どうせ管楽器で消されるでしょうに。そうそう、ピアノ聞こえてた?」
「全然聞こえなかったぜ?」
「…」
ヨネッサンは顔をしかめた。というより、ゆがめている。眉間にしわがより、口をへの字にまげていた。
「PAマジ無いわ。だから軽音楽部のPAにしとけといったのよ!」(マジ無い=本気でありえないということ)
「吹部(吹奏楽部)のPAというより今回操作してた鈴木が悪いんだと俺は思うぜ?」
茶色の男が、ラーメンのスープをごくごくと飲み干しながら、遠くの席にすわって彼女らしき女と仲良くご飯を食べている鈴木をチラッと見る。
ここでまた一時停止をする。
ラーメンをすする男の名は、義鍛左貴(ぎたんさき)。サキという名前だが、れっきとした男である。
20歳、男性、身長154cm、体重41kg、O型。みんなからはサキ君と呼ばれている。
こげ茶色の髪を短く整えており、アイロンのきいたYシャツに茶色のネクタイをきっちりとしめている。Yシャツだけでなく、ズボンもアイロンがきいており、黒のローファーも丁寧に磨かれている。
就職活動中の学生顔負けの清潔感である。
しかし
「鈴木の彼女、あいつ絶対や<ピー>だよな。ああでも身体がマジで俺好みなんだよなあ〜。とりあえずだな、そのおっぱいを…」
彼が言い終わる前に、ヨネッサンのすさまじい鉄拳が彼の顔面に直撃し、サキ君は鼻血を噴出しそのまま倒れた。
ちなみに、サキ君は見た目こそ清潔なのだが、中身は中年オヤジ顔負けの超不潔ド変態である。
「アンタってやつは…!ミサトさま、いつも思うんだけどよくこんな男と結婚しようと思ったわねえ…。…え、あれ!?あれは…シマちゃん!?」
ヨネッサンは周りそっちのけに、すばやく立ち上がり、ある人を見つめた。
そいつは、痛みまくった長く赤い髪をヘアバンドでまとめており、くたびれたジャージを纏って歩いている。
彼は一人でいた。
「シマちゃーん!シマちゃん!?おーい!」
ヨネッサンが彼にむかって叫ぶ。しかし彼は見向きもしない。
「気付いてないんじゃね?」
とサキ君。
「…だって〜この美しいアタシに気付かないハズないわよ!」
そう、ヨネッサン達から彼の距離までかなり遠い。よほど目の良い人、または耳が良い人、またはかなり声の大きい人でないと、見つけられないだろう。
彼は長身だからわかったものの、平均的な身長であるため、ほかの学生達に見事に混じっているヨネッサン達のことなどわかるはずがない。
「シマちゃんなら、気付くと思ったもの。あれは間違いなくシマちゃんだわ。幼馴染のアタシが言うのだもの。」
膨れっつらを緩め、ヨネッサンは深くため息をついた。
同じ頃、赤い髪の青年、和力試磨男は、通行人以外の存在をシャットアウトし、ほとんどの神経を耳に集中させていた。両耳にはめたイヤホンから、ギター、ベース、ドラム、ボーカル編成の曲が流れる。
おそらくクラシック好きな人が聞いたら、この曲は「うるさい」部類にはいるかもしれない。
しかしデスメタル好きな人が聞いたら、この曲は「静かすぎる」部類にはいるかもしれない。
彼はそこから脳を駆使してドラムの音だけを丁寧に抜き取り、彼の感覚にインプットする。
そして、小さな声で「たかたか、どこどこ、どぱーん」と口に出す。
秦から見たらすごい変な人である。長身で、ボディビルよろしく筋肉質の身体つき、ジャージ、それでいて顔が童顔というアンバランスな人を見たら誰だってびっくりするだろう。タダでさえ、長身と筋肉質な身体の組み合わせが本気で怖いと思う人だっているのに。
口でビートを刻みながら、自動ドアをくぐり外に出て、ポケットからiPodをとりだし、「停止」ボタンを押す。
イヤホンを耳からはずし、きちんとまいてからポケットにしまう。
それから、ふかく深呼吸をする。ここが山とかならわかるが、ここはただの大学である。
本当にはたから見たら変な人である。
んー、とうなりながら伸びをし、軽くストレッチをしてからまた歩き出し、出たところまっすぐのところにある、オレンジ色の建物が特徴の売店へと足を踏み入れる。
「新入生の方ね?こんにちは。あなた、ずいぶんと大きいのね。」
売店のおばちゃんがにこにこ笑いながら、彼に挨拶をする。
丸く、大きな青い瞳をおばちゃんにむけ、2,3回瞬きをすると、「こんにちは。」と言って彼はにこっと笑う。
笑ったときの顔は、童顔からかとても可愛い。ただし身体が大きくなければ。
「おいしいごはんは、売っていますか?」
「ごはん?そうねえ食堂の売店になら売っているかもしれないけど、ここは御菓子とかカップラーメンしかないわね。」
「カップラーメンもごはんですよね」
「そうね。」
何だコイツはといわんばかりに、おばちゃんは苦笑いを浮かべる。
「でも、ぼくせっかくここにきたから、おいしいもの、食べたいな。」
シマちゃんはおばちゃんには目もくれず、キョロキョロとアタリを見渡す。
「じゃあ、おばちゃんおすすめのカップラーメンを教えましょうか?」
「ううん。ぼく、このお店で一番おいしいお菓子が食べたいな」
子供っぽい喋り方をするわ落ち着きがないわ、本当にはたから見たら変な人である。
「じゃあ、葉課坂饅頭はいかがかしら!有名な和菓子やさんとコラボしたのよ!」
「ほんと!?いくらですか?」
「一つ100円になるわね」
「買うー!5こ、ちょうだい!」
彼は笑顔を輝かせながら、ポケットからさいふをとりだし、1000円札をレジに出す。
「一人で食べるの?」
「ううん!仲良くお友達と一緒に!」
「そう。じゃあ大学生活楽しんでね」
「ありがとう、おばちゃん!」
試磨男はバイバイと手をふって、売店をスキップしながら出て行った。
本当に変な人だ。言動だって子供みたいだ。しかし、笑顔が可愛かったなあ。
おばちゃんは、複雑な気持ちでため息をついた。
夕方
大講堂からぞろぞろと学生が出てくる。その学生のうち3人が大講堂から出てきたとたん少し立ち止まる。
「さーて、授業全部おわった!さ、プレハブいくぞー!」
サキ君が伸びをしながら歩き出す。
「シマちゃん、場所わかるかしら?」
ヨネッサンが頭をポリポリとかきながら顔をしかめる。
「大丈夫だって!俺メールしといたし!」
「場所の名前書いただけじゃわからないわよ」
「シマちゃんは俺達の事を嗅ぎ分けられるハズさ!」
「犬かよ…」
「というかシマちゃんアドレス変わってなかったんだな」
「そうね。それだけでもよかったわ」
「でも会いに行こうとおもえば会えるよな〜。家近いし。」
そんな他愛もないが、少し心配まじりの話をしながら、九号館へとむかう三人。
メガネの女、ヒロコはだまって二人のあとをついていくだけであった。
「…どうしたのヒロコ、黙りっぱなしで…」
サキ君とヨネッサンは彼女の前にいた。彼女が全く喋らない事に違和感を抱き、振り向くと、ヒロコはその場でしゃがんでいた。
「どうした?」
ヒロコはうつむき、少し息を荒げている。
「…早く保健室いこう。歩けるか?」
「…すみません」
サキ君が彼女の肩を担ぐ。
「謝らなくてもいいんだって!さ、ヨネッサン、左頼むわ。」
「言われなくてもそのつもりよ!」
健康な二人に支えられ、彼女は脂汗をかきながらゆっくりと保健室へと歩む。しかし、ヒロコは、二人の支えがあっても安定せず、そのままひざをついてしまった。
二人は彼女の腕を振りほどき、ぐったりとしたヒロコをゆする。
周りから「なんだなんだ」といわんばかりに野次馬があつまる。
はやく、保健室に連れて行かないと…。でもそこはプレハブより遠い。
細いサキ君じゃ彼女を担ぐことは不可能だ。誰かに抱えてもらわないと…。
「あ、ヨネッサンとサキ君だー!」
ふと、聞きなれた声がしたので、ヨネッサンとサキ君がふりむいた。
野次馬も声のするほうへむく。
身長2mはあろう大男が、ハンバーガーを食べながらこちらを指差している。彼は長く赤い髪をヘアバンドでまとめ、丸くて大きく、透き通った青い瞳をこちらにむけている。その顔に、二人は見覚えがあった。
忘れもしない、大事な大事な幼馴染、和力試磨男だ。
「シマちゃん!!!」
「あれ?どうしたの?」
人ごみをかきわけ(というか野次馬がすでにビビってどいている)、彼が二人のところに駆けつける。
シマちゃんは倒れているヒロコをみるや、ひょいっとまるで軽いものを持つかのように彼女を抱えあげ、秦から見たら「お姫様だっこ」の状態にする。
「ねえねえ、お医者さんのいるお部屋はどこ?」
「保健室、案内するわ!」
ジロジロと好奇の目で見る野次馬を無視し、親友との再会を懐かしむ前に、彼は目の前の出来事を何とかしようといわんばかりに背をむけ、保健室へと向かう。サキ君も慌てて後を追った。
保健室はあいていた。先生が不在であったが。ベッドにヒロコを寝かせ、先生が来るのを待つ二人。先生を呼びに行ったのは、サキ君。
「久しぶり、ヨネッサン!」
柔らかい笑みを浮かべながら、幼馴染と久しぶりに再会できた事を喜ぶシマちゃん。
「あ、ああ…久しぶりね…」
先ほどの出来事があってか、なかなかそういう気になれないヨネッサン。
「ぼくも、一緒にバンドやりたいから、こっちにきたの。でもね、体育のことも学びたいんだ」
「へ、へえ…。」
普段だったら「アンタ、きっと出来るわよ!」とノリノリになれるはずなのだが…。
ヨネッサンも震えている。ヨネッサンは彼のもう一つの面を知っているからだ。
「ねえ、この子大丈夫?すごく辛そうだったよ。」
「生まれつき身体が弱いのよ。来てくれて助かったわ。ありがとう。」
「たまたま見つけただけだよ。だから誰だろうとぼくは助けた。」
「アンタって本当に優しいのね。」
「困ったときはお互い様だろって、サキ君から教えてもらったの。」
二人でそんな会話をしていると、サキ君が先生を連れて保健室に戻ってきた。
先生はどこにでもいそうな、ロングヘアーの年配の女性である。ヨネッサンから事情を聞きながら、ヒロコの様態を見る。
少しの沈黙の後、先生は柔らかく微笑み「しばらく寝かせてあげたら大丈夫よ。」と答える。三人ともそれを聞いて安心し、胸をなでおろす。
「先生はここにいるから、貴方達は部活へ行くなり、帰宅するなりしなさい。」
ヨネッサンは一言、「宜しくお願いします」と言って頭を下げる。
シマちゃんも「先生お願いします」と言って頭を下げる。
サキ君は右手をすばやく突き上げ、「先生俺ヒロコの事心配なんで付き添ってやりたいっす!」と叫ぶ。下心丸見えで。
もちろん、ヨネッサン、シマちゃん、先生の3人にゲンコツを食らったのは言うまでもない。
後編へ続く。
続きからみじかいあとがき
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